碓井真史 (うすい まふみ、1959年8月16日-)は、東京都出身の社会心理学者。新潟青陵大学大学院教授。博士(心理学)。碓井真史の個人ホームページはマインドコントロールと洗脳の心理学について、マインドコントロールの解き方についてで文章があって、文章の中で、救出法?一般の宗教とカルト、破壊的カルトの違いなどを述べる。
破壊的カルト宗教の教祖や教団組織の悪口を言うのは慎み、むしろ教団組織について積極的に知ろうとしよう。
アメリカでは、青少年を子どもに持つ親の必読書といわれる「カルト教団からわが子を守る法」という本をもとに、私の考えを述べながら、危険なカルトのワナから家族や親友を救い出す方法についてご一緒に考えましょう。
はじめに
誰でも、宗教を信じる自由はあると思います。けれども、家族や親友が奇妙な宗教に入ってしまって、それまで大切にしていた家族や友人の人間関係、趣味、勉強や仕事、人生の目標を捨てるようなことを言い始めたら、それはやはり、とても心配です。
ましてや、その宗教団体が危険な破壊的カルト宗教であり、本人がだまされて入信した被害者だとすれば、家族友人として何と助け出したいと思うのは、当然のことです。
本書は、特に青年期の子どもを破壊的カルトから守る方法について書いてありますが、それに限らず、家族の誰かや友人を救い出すための方法について考えていきたいと思います。
そのカギとなるのは、
親子、夫婦、家族、友人、あなたとその人との人間関係を、もう一度結びなおし、その人の話に耳を傾けることです。
破壊的カルト
カルトとは、何かの熱烈な信奉者達のことです。テレビで「カルトクイズ」なんて言うのがありましたが、何かが大好きで、そのことなら何でも知っている人達に、ずいぶん詳しくて細かいクイズを出していました。
それとは別に、カルト集団というと、奇妙な新興宗教団体などを指すことがあります。しかし、新興宗教が全部悪いわけではありません。また、部外者から見ればどんなに奇妙な教義でも、私たちには信仰の自由があります。何を信じても良いのです。
しかし、ここで問題にしているのは、マインドコントロールなどの悪質な手法で信者を獲得し、本人や家族や社会全体に害を与える集団です。これを、単なるカルトと区別するために、「破壊的カルト」と呼ぶこともあります。
宗教の破壊的カルトの他に、政治思想、商業、オカルト、心理学などの破壊的カルトもあります。
破壊的カルトの見分け方
破壊的カルトの特徴
?思考、感情、行動、情報のコントロール(マインドコントロール)
?一般社会や信者以外の人間の敵視、蔑視、軽視など。
?規模:いろいろ
?教祖:個人教祖の特徴、存在の有無など、いろいろ。
?ライフスタイル:厳しいものから不道徳なものまで、いろいろ。
?教祖、または教団組織への絶対服従。教義が変わったときには、自分の考えもそれに合わせる。
?批判的思考の否定
?目的のための手段の正当化
?世界観の分化。教団組織は善、それ以外は悪。
?救いや、心の平和は、教団組織に従うことによってのみ得られる。
(伝統的なキリスト教なども、教会の存在を重視します。しかし、救いは、信者と神との個人的関係にあると教えます。神を信じる者が救われるのであって、教会や牧師に従う者が救われるのではないわけです。)
?脱会者には、恐ろしい制裁がくだされる
(一般の宗教であれば、その宗教団体から脱会しても、入会前の状態に戻るだけです。それに対して、脱会すると、前よりももっとひどい目に合うと教えます)
?教団組織を個人より優先する、全体主義的体制。
?これまでの人間関係や人生の目標など、過去との断絶をさせる。
*全ての破壊的カルトが上記の特徴全てを持っているわけではありません。また、客観的には上記の特徴があっても、信者である本人は、全く気づかない方が普通です。
破壊的カルトのチェックリスト
勧誘方法は良心的か
教祖や教団組織に盲従するようにしていないか
教団組織の外の世界を極端に悪く言わないか
信者の個性を尊重するか
異常に厳しい生活上の決まりはないか
外部の情報を自由に得られるか、またそれらの情報への態度はどうか
伝統的宗教を極端に軽蔑していないか
一般の学校への進学に積極的か消極的か
信者の自主性やプライバシーを尊重しているか
信者の過去の出来事や人間関係をバカにしていないか
良い宗教と悪い宗教
ここでは、宗教の教義については触れません。本人の様子と、教団組織のシステムについて考えます。
良い宗教
?信仰のシステムは開放的で、他の思想にも耳を傾ける
?批判能力はそのままか、強められる
?自主性はそのままか、強められる
?価値観や生活や目標が、信仰と一体化し、調和している
悪い宗教
?教団の操作や圧力によって改宗した
?完全主義で他の考えを認めない
?批判的な考えは否定され、批判能力が脅かされる
?自主性が失われる
?これまでの人間関係や大切な過去を否定する。全体として調和していない
?経済的、精神的に教団から搾取される
破壊的カルトと戦うために
問題解決への準備
?人間関係を良くする。家庭内の他の問題も含めて、解決を目指す。夫婦は円満か。暴力はないか。大きな心配事はないか。
?それまでに、カルトのことでケンカなどをしたことがあれば、こちらから謝り、人間関係を修復する。
?情報を集め学習する。
?忍耐強くなる。
*家族や親友との人間関係が悪くなれば、その人はますます破壊的カルトの中へ入っていきます。
*人間関係の良くない人と、有意義な話はできません。また、効果的な話し合いのためには、下準備が大切です。言いたいことは、山ほどあるでしょうが、一方的にお説教をしたり、叱ったりしても、問題は解決しません。
破壊的カルトからの救出(マインドコントロールの解き方)
破壊的カルトについて学べば、その組織のウソ、偽り、教義の矛盾、社会とのトラブル、信者が受ける害について、次々と分かってきます。
しかし、そのようにして知った情報を勝ち誇ったように相手に伝えても、効果はありません。その人自身が、教団組織の問題性について気づかなくては、破壊的カルトから抜け出すことはありません。
本人がカルトの間違いに気づくために
?信頼関係、親密な人間関係を確立する。これが、話し合いの必須条件
?相手の話を良く聞く
?教団組織への疑問が生まれるような、適切な質問をする
答えを押しつけるのではなく、本人の心に、カルト教団組織への疑問が生まれるようにする。言われるままに信じていることに対して、自分の頭で考えるようにしむける。
ただし、適切な質問ができるためには、かなりの下準備と学習が必要です。
?自分の感情をコントロールする
怒りやいらつきを押さえ、その人に対する冷静さ、忍耐強さ、愛情を表現する。
?カルトが作った親子間や友人間のバリアを破る
家族や親友が反対することは、教団組織からすでに言われている。家族や友人を、真理から引き離す悪魔呼ばわりする教団組織もある。単に反対したり、怒ったり、冷たくしたりすると、教団組織の正しさを証明するようなことになる。
本人に対し、愛と優しさを示すことが、教団組織の作ったバリアを破ることになる。
?カルトやマインドコントロールについての理解を深める
自分の宗教組織への批判は聞かなくても、一般的なカルトやマインドコントロールの話なら聞くこともある。聞くことによって、自分が所属する教団組織にも似ている点があると気づくかもしれない。
?カルトへの疑問が表現できるような環境を作る
心の中に、疑問が生まれても、表面には表さないように訓練されている。また、プライドや不安が邪魔をすることもある。本人にとって、非難されたり、バカにされたりしない、安心できる環境が必要。
?非カルトの世界へ目を向けさせる
カルト以前の人間関係、夢や目標を思い出させる。
?選択させる
カルトの教団組織にとどまるか、脱会するか、様々な情報を知った上で、選択できるようにする。
?カルト教団組織にとどまることを選択した場合:それでも温かな人間関係を保つように努力する。チャンスはまたある。 ?脱会を選択した場合:長くカルトの世界にいた人ほど、社会復帰は困難。精神的な不安、普通の生活上の経験不足、学歴や職歴の問題、経済上の問題、人間関係の問題など、多くの問題がある。本人の社会復帰を援助し、支える。
おわりに
破壊的カルト宗教の教えは、宗教の研究者から見れば、幼稚であったり、矛盾だらけのものです。信者たちの考えや行動は、宗教に詳しくない人から見ても、奇妙に見えます。しかし、破壊的カルトやマインドコントロールを甘く見ては行けません。
多くの信者を集め、組織を維持しているその団体は、それだけの魅力があり、信者獲得と教団維持の優れた方法を持っています。うっかりすると、あなたも取り込まれてしまうかもしれません。(ミイラ取りがミイラにならないように、特にご注意を!)
カルトの組織内では、家族や伝統的宗教からの批判や質問への答えを準備し、逆に攻撃できるようにしています。週に何日も集会場に集まり、勉強し、意志を固め、ロールプレイング(対話の訓練)を行ったりします。こちらが、少しぐらい準備して、対話に臨んでも、簡単には効果が上がらないのも当然です。
しかし、家族や友人としての深い愛情があり、そのために時間と労力を使う覚悟があるなら、その人をカルト教団から守ることもきっとできると思います。簡単なことではありません。けれども、あなたが見捨ててしまったら、誰が助け出すのでしょうか。
あなたを援助してくれる団体もあります。被害者団体や書籍やネット上のホームページでも、役に立つものはあるでしょう。私も、何かのお役に立ちたいと願っています。
補足:宗教団体や政治団体が危険だと言いたいわけではありません。人類の幸せに貢献している多くの宗教団体や政治団体があります。また、特別害のない団体もたくさんあるでしょう。
http://www.n-seiryo.ac.jp/~usui/mc/03mamoru.html