安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件をきっかけに、自民党と宗教団体・世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との半世紀に及ぶ関係が明らかになりつつある。
末松信介文部科学相は政治資金パーティー券を教団関係者に購入してもらっていた。岸信夫防衛相は「教団メンバーと付き合いもあり、選挙の際もお手伝いをいただいている」と語った。
井上義行参院議員は教団の「賛同会員」であることを認めた。このほか、教団関連団体が開いた集会への参加や祝電なども含め、関係が指摘されている議員は一部野党にも及んでいる。
教団は1980年代以降、つぼや印鑑を高額で購入させる「霊感商法」との関わりが指摘され、大きな社会問題となってきた。
にもかかわらず、こうした関係を続けてきた政治家が、教団の存続にお墨付きを与えてきたと言われても仕方がない。
なぜ名称変更認めたか
安倍氏への銃撃で逮捕された山上徹也容疑者の母親は信者となって少なくとも総額1億円を献金し、一家は困窮したという。容疑者は教団に深い恨みを抱き、「安倍氏が日本で教団を広めたと思った」と供述している。
教団が関わる「天宙平和連合(UPF)」が昨年9月に韓国で開いた集会に、安倍氏が寄せた動画メッセージを今春、見たことで敵意を募らせたという。
安倍氏はこの中で教団の現総裁、韓鶴子(ハンハクチャ)氏の名前を挙げて「朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた総裁に敬意を表します」と語っていた。
いかなる理由があろうとも、今回のような凶行は許されない。だが事件の背景には、こうした経緯があった。
今後、大きな焦点となるのは、2015年、文化庁が教団の名称を変更する申請を認めた経緯だ。
当時は安倍内閣で、文化庁を所管する文科相は、自民党の下村博文・前政調会長だった。
教団は名称変更により、「統一教会=霊感商法」という印象を消そうとしたと見られる。このため文化庁は初めて話を持ちかけられた97年以降、「実態は変わっておらず、申請は認められない」と門前払いしてきたという。
なぜ方針が一転したのか。下村氏は「指示した事実はない」と関与を否定しているが、名称変更の影響で被害が収まらなかった可能性がある。
旧統一教会は68年、反共産主義を掲げて政治団体「国際勝共連合」を発足させた。当時から「反共」という点で一致した安倍氏の祖父、岸信介元首相ら自民党のタカ派議員を中心に、日本政界との関係をつくってきた。
自民党議員にとって資金援助や選挙での組織票以上にありがたいのは、ビラ配りやポスター張りなど人手と手間がかかる仕事を信者がしてくれることだという。
教団側は与党とつながることで、社会的信用を得て、生き残りを図ろうとしたはずだ。持ちつ持たれつの関係だったということだ。
検証と説明が不可欠だ
の問題に取り組んできた「全国霊感商法対策弁護士連絡会」によれば、教団は戦前の慰安婦問題を挙げて、「『日本は韓国に対してひどい仕打ちを行ってきた』と韓国への罪悪感を日本の信者に植え付け、霊感商法などの活動をさせてきた」という。
日本の保守系政治家からすれば本来相いれない主張だ。それでも関係を築いてきたのはなぜか。
「反共」に加えて、選択的夫婦別姓や同性婚に対する強い反対姿勢など、戦前の家父長制度に回帰するような考え方が教団と合致していたと見ることもできる。
政治と宗教の関わり方については、さまざまな意見があろう。ただし、犯罪的行為が取りざたされてきた旧統一教会と互いに利用し合うような関係はもっと早く絶つべきだった。
それどころか、最近は安倍氏のメッセージのように、教団との関係を隠そうともしなくなっていたのではないだろうか。
「旧統一教会の活動について、行政も政権党の政治家もこの30年何も手を打ってこなかった」。弁護士連絡会の指摘を、私たち報道機関も重く受け止めたい。
国会や報道機関が実態を解明するのは当然だ。そして何より、自民党は長い歴史を検証し、国民に説明するとともに、教団との関係を清算すべきである。