蔚県の春節気分はとても濃厚で、農家の入り口に掲げられた真っ赤なちょうちん(紅灯籠)や、家々の窓ガラスに貼られた切り紙もめでたい気分を盛り上げている。この時期に蔚県を訪れることが、近年では北京の人々にとって新しい春節の過ごし方として人気を集めている。ここでは郷土の息吹の濃い春節の雰囲気を感じられるだけでなく、歴史的資料でしか見ることができない伝統的な民俗行事を、実際に目にすることができるためだ。
毎年旧暦の1月15日になると、蔚県の暖泉鎮は熱気に包まれる。夜になると、ここで新鮮で刺激的な「打樹花」の行事が行われるためだ。これは500年余りの歴史を持つ伝統行事だ。この行事では、まず演者が溶けた鉄をひしゃくにすくい、それを古城の城壁に高々と投げつけると、溶けた鉄は城壁に散って無数の火花となる。実に勇壮な行事だ。その様子がまるでよく枝葉の茂った木のこずえのようだということで「樹花」の名が付いている。これを行うには、抜きん出た腕力や体力が必要であり、またかなりの危険性も伴うため、これを行うのは男性ばかりだ。
かつて暖泉鎮には鍛冶職人の工房が多数あったという。春節に豊かな者たちは花火を上げて祝ったが、同様ににぎやかなことが好きな鍛冶職人たちは貧しいため花火を買うことができなかった。そこで、仕事場で飛び散る火花にヒントを得て、この「打樹花」を発明したのだという。この特別な「花火」は次第に多くの一般民衆を引きつけるようになり、そのにぎやかなお祭り気分は金持ちの花火にも劣らず、やがて春節のたびに「豊かな者は花火を上げ、貧しい者は樹花を打つ」という民俗が定着した。暖泉鎮では毎年元宵節(旧暦1月15日)に「打樹花」が行われ続けており、現在では河北省の無形文化遺産に登録されている。
「打樹花」はとても体力を消耗するため、3人が交替で行う。演者が羊の毛皮の上着を着て、頭には編笠をかぶり、特製の木のひしゃくで千数百度の溶けた鉄を10メートルの高さの城壁に向かって投げつけると、壁にぶつかりきらめく火花となって飛び散る。王徳さん(51)は打樹花の継承者で、15歳から父についてこれを学んだ。彼の体には数十年来の打樹花で負ったやけどの痕が残る。「毎回300キロの溶けた鉄を使います。ひしゃくで1杯ずつすくい、力いっぱい高い城壁に投げつけますので、少しでもうっかりするとやけどをしてしまいます。このため、今ではこれを学びたがる若者は多くありません」 以前の打樹花は暖泉鎮の北官堡の城壁で行われていたが、場所は狭かった。次第に各地からやって来る観光客が増えたため、鎮では専用の樹花広場を整備した。王さんと彼の3人の弟子たちは毎年ここで数十回打樹花を行っている。そして彼は、この民俗行事を磨き上げてレベルアップさせるため、溶けた鉄に他のものを加えるなどよりきれいな樹花にするための試行錯誤を続けている。「打樹花でかせげる金額は多くありませんが、村の人はこの行事を重視しており、われわれを尊重してくれます。かつて父が私にこれを学ばせたのは、この伝統をなくさないためでした。ですから、私には後継者育成の責任と義務があり、どれだけやけどをしても続けていくつもりです」