向海湿地で保護繁殖された丹頂
今年9月、吉林省西北部の白城地区に位置する向海湿地の自然保護状況を取材する機会があった。干ばつ傾向にあった湿地を原生に戻し、自然と文化を保護しようというプロジェクトに1983年以降、国家および省政府から1000万元が投入された結果、86年に同地は国家級自然保護区に認定され、現在では、希少な丹頂や雁などの主要生息地となっている。92年には、世界自然保護基金(WWF)の「国際意義を有するA級自然保護区」にも名を連ねた。
北京から吉林省の省都?長春まで飛行機で2時間弱。その後、車で6時間(約375?)の長旅を経て、向海湿地に到着した。面積10万5467?に及ぶこの自然保護区では、300種ほどの動物が保護繁殖の対象となっていて、鳥類は173種、その中で鶴類が15種となっている。
湿地で魚を捕る漁民。自然保護により魚も増えている
特に丹頂の保護繁殖状況が素晴らしかった。向海湿地には、数百羽の丹頂が生息していて、かなり近くに寄っても人を恐れない。私がカメラを向けると、好奇心旺盛にレンズをつつきに来るものもいてこちらが驚いたほどだ。丹頂は日本を象徴する鳥であり、私は日本にのみ生息するものかと思っていたが、資料によると、中国でも古来より長寿や幸運、愛情の象徴として、古くは殷の時代(紀元前1600年?前1046年)から親しまれ、国鳥候補にも選ばれているそうだ。丹頂は日本のみならず、アジアを代表する動物だったのだ。
夕刻、向海雁基地に向かった。ここでは長期にわたり給餌が行われていて、巣に戻った何千羽の雁が餌の時間を待っていた。こんなにたくさんの鳥を見たことがない。その数の多さに、給餌をしている人たちに対する鳥たちの信頼を感じた。夕日の中に羽ばたく何千羽の雁。自然と雁が一体化したような素晴らしい風景だった。
丹頂の美しい飛行姿
向海雁基地で餌を待つ雁
自然保護と共に、伝統文化の保護にも力を入れている。
蒙古族に伝わる民族音楽?烏力格爾(ウリゲル)の伝承者、今年68歳になる梁海清さんの演奏を聴くことができた。烏力格爾とは、馬頭琴や四弦琴を伴奏に歌ったり語ったりする伝統音楽だが、梁海清さんの演奏と声色は、大地から響いてくるような深い音色で、心の底に染み込む響きだった。
また、産業として、湿地の柳の枝やアシの茎などを織って、籠や履物、枕、椅子などを作る鎮賚柳編(吉林省鎮賚県の工芸品)が省級無形文化遺産に登録されている。日本をはじめ、米国、ドイツ、イタリアなどに輸出され、この地の主要な産物となっている。
自然と文化と人との調和を実現している白城?向海。北京から遠い場所ではあるが、一度は訪れる価値のある場所だと思う。
四弦琴(四胡)を伴奏に歌う烏力格爾 の伝承者、梁海清さん
鎮賚柳編は一つ一つ手作りで丁寧に作られる
鎮賚柳編の籠
○佐渡多真子
フォトグラファー。1999年より北京在住。『人民中国』『NHK中国語会話』などの表紙撮影を担当。著書に『幸福(シンフー)?』(集英社)など多数。