写真はネットより
大学が休みのある日、私は杭州市内のスーパーに行きました。すると棚の上に納豆が置かれているのを発見しました。私は驚きと懐かしさで思わず、「おお!納豆か!」と心のなかで叫んでしまいました。
「納豆」と聞くと私は思い出す物があリます。それは1991年、私が中国留学中に、大学の学生食堂で食べた、ある小さな赤い四角の物です。そう、中国人はそれを「腐乳」(フールー)と言っていました。「フールー」、これを説明すれば、「小さい腐った豆腐のかけらに“塩からいたれ”をつけたぬるぬるしたもの」とでも言うしかないでしょうか。その風味の異様さは「納豆」以上でしょう。何か物の腐ったような匂いがしきりに鼻をつきます。私は初めどうしてもこの「腐乳」が食べられませんでした。日本の「納豆」が食べられない外国人の気持ちが初めてよく分かったような気がします。中国の友達に是非と薦められて、どうしてもこの「腐乳」を食べなければならなくなり、仕方なく少し食べてみました。この時は特に美味しいとは感じませんでした。それどころか、今まで味わったこともない不思議な味がします。私は思ったのです、「中国料理には美味しい物がたくさんあるので、なにも好き好んで、こんな腐ったような匂いの『腐乳(フールー)』を食べることもあるまい」と。
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その後、私は中国人の妻の習慣から「腐乳(フールー)」を食べる機会もますます多くなりました。物によってはこの腐乳と一緒に食べるとすこぶるおいしいものです。私はいつの間にか朝、パンや饅頭(マントー)の上にこの「腐乳」を塗って食べるようになっていたのです。
「納豆」は一時代前、中国では手に入りにくい日本の食べ物でした。ところが昨今の中国では納豆ブームとも言えるほどで、納豆を作る納豆機までよく売れていると聞きます。子供の時、私が西洋のチーズを食べられなかったことを思い出します。どの民族にも「納豆」や「腐乳(フールー)」、「チーズ」のようなものがあると思います。「納豆が食べられない」と言う外国人に向かって、一人の日本人として私は申し上げたい、「少し、試しに食べてみてください、幾度か食べるうちにはきっと大好きになりますよ、それが日本文化を理解する一番の早道かもしれませんね!」と。
(作者/金井五郎 浙江工商大学の元客員教授)